風の国から Vol.9

by Peko

 2月19日、3ヵ月ぶりにプエルト・モン(チリ)に帰ってきました。
 バリロチェから自転車で国境を越えるには二つのルートがありました。ひとつはナウエル・ウアピ湖北岸のバス道を行くルート、もうひとつは国境をはさんでチリ・アルゼンチン両国に点在する3つの湖を船で渡り、山越えをするルート。この湖群はそれぞれ景勝地になっており、両国とも国境までの日帰り観光ツアーがあるので、これを利用して国境を越える人も少なくないのです。すこーし悩んだ末、後者のルートを行くことにしました。
 具体的には、アルゼンチン側はナウエル・ウアピ湖を船で渡り(約1時間半)、そこから3キロ先にあるノルテ湖を再び船で南岸に渡る(約20分)と、アルゼンチンの税関があります。ここで出国スタンプをもらい、さらに3キロの山道を登ると国境です。チリ側は、国境からアンデス山中の急な坂道を6キロ下ると国境警察の事務所があり、さらに17キロ下ると税関です。ここでやっとパスポートに入国スタンプを押してもらえます。この税関のすぐ先にトードス・ロス・サントス湖があり、これを船で渡って(約1時間)やっと国境越えが完了します。
 日帰りの観光ツアーなので、両国とも船はそれぞれ1日1便、湖から湖への移動にはツアーのバスが客を運んでくれるのですが、私達の自転車を乗せる余裕はないということなので、バスの部分は自転車で走ることにしました。船の乗継は2回あり、最初の3キロを30分以内に、国境を越えてチリの湖までの26キロを3時間以内で走れば船の乗り継ぎに間に合います。出発前にはこの26キロの道に関する正確な情報は得られなかったのですが、なんといってもバスが走る道ですし、地図で見た限りでは何とか2時間半くらいで走り抜けられそうでした。一番の問題は出入国手続きです。実際、アルゼンチンの出国手続きはやたらと時間がかかり、しかも最後の方になってしまって、随分慌てました。
 この日のアンデス山中は霧雨。ひんやりとした空気が体中にまとわりついてきます。竹やシダなどが生い茂った森の中を白緑色に濁った川がゆるやかに流れ、ゆったりと川霧がたっていました。空気は冷たいのに辺りはすっかりジャングルの雰囲気で、あと何千キロか北でこの森はアマゾン源流につながるのだな一と、妙に納得したり感心したり。時間に追われつつ自転車で行く日本人のまわりで、森は霧雨の中にひっそりとしていました。
 チリ側の入国手続きは、バスの人たちが行った後で2人だけだったせいか、すんなり終了。ただ、その日の食料としてアルゼンチンから持ってきた野菜、果物、サラミソーセージは税関で没収。その場でごみ箱に捨てられてしまいました。昼食もまだだったので没収は困ると文句を言うと、「アルゼンチンは病気が多いから生ものは持ち込めない。でも、ここで食ぺるなら問題なし。」といってくれたので、その場で果物を食べ、さらにごみ箱からサラミを拾い出そうとしたら、お役人氏が「おえー」という顔をして見せました。
 結局、出航15分くらい前に船着場に到着。バスに乗っていたツアー客の男性が「よく間に合った」という風にニコニコ顔で拍手してくれました。夕方チリのトードス・ロス・サントス湖を船で渡り湖岸で1泊したあと、雨のそぼ降る中を自転車で1日走り、夕方懐かしいプエルト・モンの民宿に辿り着いたのでした。

 プエルト・モンにて 1990.2.20