風の国から Vol.5

by Peko

 お元気ですか。今、カラファテ(アルゼンチン)にいます。
 1月11日、フェゴ島のウシュアイアから飛行機で移動してきました。利用した航空会社は「LADE」といって、アルゼンチン空軍が運営しているそうです。40人乗りくらいの観光バスのような飛行機で、座席はスライド式で簡単に取り外し可能。そして離着陸時に助走をほとんどしないくらい、加速と減速が鮮やかです。軍用機ってこんな感じかも、と思わせます。カラファテ空港の滑走路は一本だけでとても短く、しかも未舗装。着陸前に上空からそれを確認したPoko氏は外を覗きながらしきりに「大丈夫かなー」。でも、そんな「LADE」だからこそ使える空港、という気がしました。
 カラファテは小さな町ですが、ロスグラシアレス(氷河)国立公園への入口ともいえる町で、高級そうなホテルやおしゃれなカフェもあり、たくさんの観光客がいます。
 ロスグラシアレス国立公園は、広大なウプサラ氷河や、今なお成長を続ける氷河としては世界唯一というペリート・モレノ氷河、世界中からクライマーがやってくるフィッツロイ山群(チリのパイネに良く似ています)等が有名です。
 私達はこの町を基点に氷河へは自転車で、フィッツロイへはバスで出かけました。
 ウプサラ氷河はプエルトバンデーラから出る観光船に乗りますが、モレノ氷河は対岸に展望台があるので、氷河の崩落を間近に見ることができます。展望台で寒さに震えながら見ていると、10〜30分に一度、「プキッ、ピキッ」と氷のはじける小さな音が聞こえてきます。その発生源を見つけてしばし待つと、突然、「地球が割れたか?」と思わせるほどの轟音と共に30階建てのビルくらいの氷塊がひとつ、湖へと崩れ落ちます。まわりの空気がびりびりと震え、私の胸もびりびりと震えました。気が遠くなるほどの昔にパタゴニアに降り積もった雪に今出会っていると思うと、感慨深いものがあります。結局丸二日をモレノ氷河とその周辺ですごしました。
 カラファテへの帰途、道端にアルマジロの古い死骸を見つけました。そばの崖にいくつも穴があるので見て回ったら、小さなスカンクの仔が2匹、くりくりした目でこちらをうかがっていまレた。湖にはフラミンゴ。風が強くて閉口しました。
 フィッツロイ方面へはバスで約5時間です。セロ・トーレ山やフィッツロイ山を目指すクライマーがたくさん乗っていました。羊の枝肉がのぞく段ボール箱を抱えた日本人の若者も二人いて、フィッツロイの氷壁を登りに行くと言っていました。バスの終点はキャンプ場になっていて沢山の馬と犬がおり、事務所を覗くとガウチョ風管理人氏がマテ茶を振舞ってくれました。フィッツロイ山方面へは3泊4日くらいのトレッキングコースがあって、山のすぐ下の登攀(とはん)用ベースキャンプまで行くことが出来ました。天をつくように立ち並ぶ尖った岩山は威圧感があります。ベースキャンプに着いた日は絶好の晴天でしたが、翌日からは雨。気温は7℃。山の方は雪になっていました。下り道ではちょっと道に迷いましたが、日暮れが遅い事に助けられ、夕暮れの池ではオタテガモに、森の中では手のひらに乗るくらいに小さなフクロウ(スズメフクロウ)にも出会えました。
 明日、カラファテ空港から飛行機とバスで一気にバルデス半島方面へ移動します。飛行機はまた「LADE」です。
 では、またお便りします。

 カラファテにて 1990.1.26