風の国から Vol.2

by Peko

 お元気ですか。私たちは今、南米大陸最南端のマゼラン海峡を望む町、プンタ・アレナス(チリ)にいます。 日本を発ってちょうど20日。パタゴニアの自然−氷河や動物、ナンキョクブナの原生林など−を見たくて始めたこの旅は、まだまだイントロの部分です。
 プンタ・アレナスは町中にタンポポが咲き乱れていて、いかにも春爛漫といったところです。太陽はなかなか沈まず、午後11時頃やっと夕闇が訪れます。昼が長いのはなんとも得をした気分でよいのですが、どうも活動しすぎるらしく毎日疲れています。日本との時差は−12時間なので、こちらの夕日が日本では翌日の朝日です。地球の裏表で同じ太陽を見ているのかと思うとちょっと不思議な気分です。
 11月10日、首都のサンチャゴから出ている、上下左右前後(!)に激しく揺れる今にも脱線しそうな列車に20時間乗って、約1,OOOq南の町、プエルト・モンに着きました。プエルト・モンは海に面した斜面に開けた小さな港町です。ここでプンタ・アレナスに向かう船に乗りかえます。プンタ・アレナスヘの定期便は10日に1便。野菜や果物を運ぶ貨物船が、「ついで」という風に旅行者を運んでくれます。船待ちのために旅人が集う町でもあります。私達も船を待つ間、一泊1,500円(朝食、シャワーつき)の民宿に、一週間近くお世話になりました。
 貨物船に乗りこんで通されたところは、大きなトレーラーが何台も並ぷ甲板。その傍らに大型のコンテナを10個くらいくっつけたようなものが高床式に溶接されていて、その中がリクライニングシートの並ぶ大きな客室と食堂になっていました。丸4日間の船旅の料金は3食付きで約8,500円(貧乏旅行者向けツーリストクラス)。とはいえ、船室の狭苦しさとは逆に食事はなかなか豪勢でした。日暮れの遅いこのあたりでは午後10時頃に「オンセ」という夜食の時間がありますが、これも(別料金でしたが)ちゃんと用意されていました。調理室を覗きに行くと、料理中のコックさんが大きなシーラを掲げて見せてくれました。
 何度も航海を重ねているはずの乗組員でさえついつい見惚れるほどに美しいフィヨルドの中を進む船旅は、晴天続きで波もなくすこぷる快適です。ときどき、ひょうきんな顔をしたオタリア(アシカの1種)が興味ぷかげに近づいてきたり、大きなフルマカモメが船にまとわりついてきたり。途中8時間ほど外洋に出ましたが、激しいうねりの中を4頭のクジラが近づいてきて私たちを楽しませてくれました。4日目の朝、南緯50°を過ぎてマゼラン海峡に入るとさすがに天気は崩れ、雨、雪、雹が晴れ間をはさんで目まぐるしく交代しながら吹き荒れました。気温は4℃前後。風は強く、雨が降るたびにフィヨルドに真っ白い滝ができました。
 出航から4日目の深夜、プンタ・アレナスに入港しました。船はここで積荷を羊に替えて、またプエルト・モンに帰って行きます。私たちは2〜3日後、250q北にあるプエルト・ナタレス(チリ)に移動し、そこからアルゼンチン国境近くに広がるトレス・デル・パイネ国立公園に向かう予定です。 
それでは、 また。

プンタ・アレナスにて 1989.11.25