風の国から Vol.6

by Peko

 こんにちわ。プエルト・マドリン(アルゼンチン)で、蒼い大西洋を眺めながら手紙を書いています。ここはバルデス半島への基地になっている、沙漠の中の観光の街です。カラファテから飛行機とバスを乗りついで1月28日につきました。気温は30℃。もう暑くて暑くてなあんにもする気がしなくなります。
 バルデス半島は大西洋に突き出した打出の小槌の形をした小さな半島で、半島全体が国立公園になっています。半島へは公共の交通機関は無く、現地のバスツアーかタクシーを利用します。アルゼンチンは「旅行者割増」があって、外国人はツアー料金だけでなく交通費もとにかく高いので、貧乏旅行者にはつらいです。本当は自転車でテントを持って行きたいところですが、国立公園故キャンプは禁止、しかも沙漠の中で水もないときては仕方ありません。私達は現地で知り合った日本人青年と一緒にタクシーで向かいました。
 半島内は乾燥した沙漠です。スカンクやアルマジロ、グアナコやニヤンドゥ(ダーウィンレア)などが生息しており、8月から11月頃には幅約30kmの湾内に160頭余りのセミクジラが集まることでも有名ですが、すでにクジラは去り今はとても静かです。海辺にはオタリアがハレムを作っていて、生まれたばかりの子がたくさんいました。大きなオスが動くたびに踏み潰されないかと、こちらは勝手にハラハラ…。
 また、東端のプンタ・ノルテにはミナミゾウアザラシが休む浜があり、見どころの一つとなっています。ミナミゾウアザラシは断崖下に広がるジャリ浜にてんでに寝ころんでいました。浜は立ち入り禁止ですが、観光客は断崖を降りて砂浜のはしっこに立つことができるので、ゾウアザラシと同じ目線になることができます。浜には柵があるわけではないので実に無防備に見えますが、その自由さがとてもいい感じです。ミナミゾウアザラシの巨体は圧巻ですが、いくつも並んだ幸せそうな寝顔を眺めていると、とてもやさしい気持になれます。時々物憂げにヒレで砂利をすくっては背中に放り上げるのですが、それは、虻よけと暑さよけのため、とタクシーのドライバー氏が教えてくれました。いまは、雄が「南極近海からの長旅を終えくつろいでいるところ」とのことで皆皮膚がボロボロになっていました。ドライバー氏がとれた皮膚の一かけらを拾って見せてくれました。
 明日は175kmほど南のプンタ・トンボへ行きます。マゼランペンギンの大ルッカリーがあるのですが、バルデス半島同様旅行会社のツアーで行くかタクシーをチャーターするしか手のないところです。思っていたより自由がきかずとてももどかしい思いをしています。 では、またお便りします。

 プエルト・マドリンにて 1990.2.1