風の国から Vol.8

by Peko

 今日セントカルロス・デ・バリロテェ(アルゼンチン)に到着しました。エスケールから9日かかりました。もっとも、2日目に私が風邪で体調を崩し1日停滞、5日目にPoko氏がお腹の具合いを悪くして1日停滞しましたが。道中は初日がカンカン照りの沙漠の山道で、川もなく、ひからびてしまいそうになりましたが、ロスアレルセス国立公園の入口で、思いがけずお巡りさんから氷水をご馳走になり復活!公園内は湖のほとりの森を走れたので快適でした。国立公園を出た後は、未舗装のガラガラ石の国道を山を越え谷を越え、時には馬と一緒に走ったり、牛にじっと見つめられたり。夜は国立公園内のキャンプ場を利用したり、小さなエスタンシア(農場)の庭を借りたりしました。
 エスタンシアでは家のまわりで鶏を100羽ほど放し飼いにしていて、1日1回おばさんが残飯の様なものを与えていましたが100羽の鶏を満足させるには余りにも小量で、故に鶏たちは四六時中飢えているようでした。庭にテントを張らせてもらった私たちはそんな彼らのいい「カモ」で、食事の支度を始めるとわらわらとテントの周りに集まってきて、あのなんとも無表惰な黄色い目でじい一っと人参や玉葱を切る手元を見つめるのです。中にはテント内に飛び込んでくる奴も。試しに野菜の切りくずを投げてみたら、たくさんの鶏たちが広い庭中から土煙をあげて走ってきて、すさまじい争奪戦となりました。中にはヒヨコをたくさん連れたメンドリもいるのでこっそり野菜屑をサービス…。そんな鶏たちとのスリリングで楽しい交流もありました。
 自転車で走っていると、国内の旅行者(バックパッカーだったり、オートキャンプの家族連れだったり)によく呼び止められます。皆とても親切で、暖かい人たちです。アルゼンチンはここ数年、だんだん泥棒も増えてきたと聞きましたが、今の所そういう人たちには出会っていません。途中の町には物乞いの少年少女が徘徊していましたが、表情は大人びていても、屈託なく話しかけてくるし、卑屈なところは感じませんでした。あるいは、汚れたTシャツでうろつく私達に何か共通性を感じていたからかもしれませんが。  道すがら車ですれ違う人たちに先の道路の様子を聞くと、「道路の状態は良くないし、何より上って上って上って…、下って下って下って…、の繰り返しだから、自転車では大変だよ!!」と皆、口を揃えて言いました。パンパの国アルゼンチンと、小さな山国ニッポンの感覚の違いでしょうか。どんなにすごい上りでどんなにすごい下りかとドキドキしながら走るうちに、気がついたらバリロチェに着いていました。
 それではまた。お元気で。

 セントカルロス・デ・バリロチェにて 1990.2.15

<追伸>
 アルゼンチンはこの町が最後です。驚くなかれ、1月に1ドル1,000アウストラルだったのが、今日は4,000アウストラル!レートの下降と物価の上昇が少しばかりずれているので、外貨で生活する私達旅行者にはありがたいことなのですが、現地の人たちは本当に大変です。皆「ドル」が欲しくて両替をしつこく頼まれることもたびたび…。